せかほしで探し求めた Lover's eye ラバーズアイ
NHK 「世界はほしいモノにあふれてる」 〜 時代を彩るアンティークジュエリ 〜 で、私の買い付けに同行してもらった際のミッションのひとつが、ラバーズアイを手に入れることでした。
わたしにとってかけがえのない経験となった、ラバーズアイとの出会いについてお話したいと思います。
Lover's eye ラバーズアイとの出会い
初めてアンティークジュエリーの本でラバーズアイを見た時、その異質さと強烈な美しさに目を奪われた。
ジュエリーそのものの美しさより、その奥に収められた、強く何かを物語っているような瞳の方が強く印象に残ったのを覚えている。
あれから何年も経ち、今回ジュエリーの展示に向けて、歴史的なアイコニックなジュエリーを探そうと考えた時、ふとラバーズアイのことを思い出した。
正直ラバーズアイのことはあまり知らず、実際に探し初めてから、どれほど貴重なものなのかを知った。
18世紀後期から数十年の間のみ作られていたと言われ、出回っている数が圧倒的に少なくく、ミュージアムピースとして大切に保管されているものも多い。
当時はもちろんのことまだ写真がなく、貴族たちは自身をポートレートとして描いた。
ラバースアイは、アイボリーやパーチメント(レザーで作られた紙)に瞳のみが描かれ、ブローチやロケットなどに仕立てられている。
本来なら自身の存在を示すために描かれるポートレートだが、ラバーズアイの場合は、そのジュエリーを贈る相手と贈られた相手のみ瞳の持ち主を知ることとなる。
1785年、後のジョージ4世となるプリンスオブウェールズが、宗教の違いにより結婚を許されなかった恋人に、自分の瞳を描いたラバーズアイを送ったのが最も有名なストーリー。
当時はジュエリーそのものが人々にとってとてもパーソナルなものであったが、このロマンティックなジュエリーはその究極とも言える。
いざラバーズアイを手に入れるべく動き出したものの、ジョージアンジュエリーを扱うディーラーに尋ねても、皆一番に帰ってくる返事は、「ほとんどが偽物だから気をつけなさい。」というものだった。
何十年もアンティークジュエリーに携わっているディーラーでさえも、本物か偽物かを見極めるのが難しいほどのものが出回っているらしい。
どれだけ運が良く、ラバーズアイに出会えたからといって、今の私にはそのジュエリーが本物かどうかを見極める術がない。
せっかく高まっていた気持ちが、一気に突き落とされたようだった。
半ば諦めの気持ちで、これまで話をしたことのないあるディーラーに尋ねた所、「あぁ、持っているよ。」という答えが返ってきた。
しかし、それは売り物ではなく、彼のパーソナルなコレクションだった。
写真があるからとiPhoneで見せてくれたそのジュエリーは、私にも見覚えのあるものだった。
隅から隅まで読み込んでいるジョージアンジュエリーの本に写真が載っている、まさにあのラバーズアイで、他のラバーズアイとは少し異なるデザインがとても印象に残っていたのだ。
譲ってもらえないか少し粘ったが交渉はそう簡単ではなく、もし譲る気になった時には連絡をするからと、連絡先を交換した。
数週間後、マーケットで彼に「本物を見たいかい?」と声をかけられた。
「手放す気になったの?!」と聞くと、「そうだね。でも見たところであなたが気に入るかどうか分からないでしょ。」と。
その物腰の弱い物言いから、彼が単に商売をしようとしているのではないことが分かった。
次回のマーケットに持ってきてくれるということで、ドキドキしながら5日後を待った。
当日、すべての買い付けを終わらせて、最後に彼の元を訪れた。
アンティークのパープルのヴェルベットケースから現れたラバーズアイは、想像以上のものだった。
これまで膨大な数のジュエリーに触れてきて、ひとつのジュエリーにこれほどに感動させられたのは初めてだったと思う。
正直とても高価なものだったけれど、即決だった。
このラバーズアイは、彼の友人の知人である裕福なファミリーが代々受け継いでいたものらしく、彼がまだ若い頃、惚れ込んで譲ってもらったらしい。
知り得る情報はそれだけで、瞳の持ち主は分からない。
彼曰く、昔は実際に身に着けることもあったが、ここ何十年かはずっとキャビネットにしまってあったそう。
そういえば彼はいつも胸に小さなブローチを着けている。
何十年もジュエリーディーラーをしている彼にとって、ラバースアイは一度も商売道具とは映らなかったのだ。
もしかしたら、彼に私の熱意が伝わったのかもしれない。
私も決してこのラバーズアイを商売道具のようには見ていない。
手にした瞬間、とてつもない責任感を感じた。
何百年もの間、奇跡的に大切に受け継がれてきた想いの込められたジュエリー。
まさにアンティークの儀式とも言える、ものを受け継ぐという経験を初めて身を持って体感した瞬間だった。
やり取りの後、どこか寂しげだった彼の表情がずっと頭に残っている。
普通なら、今日は良い仕事をしたなと一日を終える所、この日はきっと少し寂しい気持ちになったのではないだろうか。
だからこそ私は、このストーリーとこの力強いジュエリーの魅力を、責任を持って多くの人に伝えなければと思った。
バイヤーとしての仕事とは、ないがしろにされてきたジュエリーを再び拾い上げ生き返らせること、そしてもうひとつは、大切に残されてきたジュエリーの、そのストーリーをきちんと次の人に伝えていくことだと思っている。
いつかまた次の世代に受け渡すまで、今は私がこのラバーズアイを愛し、精一杯責任を全うする。
そのことを心から光栄だと思う。
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